インドネシアで家を借りる前に知っておくべき3つの法律知識

インドネシアへの赴任や移住が決まり、生活の拠点となる家探しは、期待と同時に多くの不安を感じる方もいらっしゃるでしょう。インドネシアの物件は、広々とした庭付きの一戸建てから、利便性の高いサービスアパートメントまで多岐にわたり、魅力的な選択肢が豊富にあります。世界銀行も高い成長率を予測するインドネシアでは、経済の安定と共に不動産市場も堅調です。特に、2024年第1四半期に住宅ローン新規貸付額が前年同期比で約11%増加するなど、旺盛な需要が続いています。インドネシアでの不動産購入を考えている方にも是非、このブログを読んでいたいたいです。
しかし、日本の賃貸習慣とは異なる点が多々あり、法律や契約に関する知識がないまま手続きを進めると、後で思わぬトラブルに巻き込まれることも少なくありません。
私たちはこれまで、多くの日本人駐在員やそのご家族の皆様からの、住まいに関する法務相談に対応してまいりました。今回は、その経験から、「インドネシアで家を借りる」際に特に注意すべき3つの法律知識について、インドネシアの法制度に基づき、実践的な視点から解説します。

賃貸借契約書の「言語」と「公証」の重要性
インドネシアの賃貸借契約は、原則として書面で行われます。口頭での約束はトラブルの元となりますので、必ず契約書を交わしましょう。

法律的な重要性
言語:インドネシアの2009年法律第24号「国旗・言語・紋章・国歌に関する法律」の第31条では、「インドネシア国内での契約は、インドネシア語を用いて締結されなければならない」と定められています。(インドネシア共和国法務人権省より)また、公式な国家文書における言語の使用については、2019年大統領令第63号「インドネシア語の使用に関する大統領令」第4条にも規定されています。したがって、賃貸借契約書はインドネシア語で作成することが法的に求められます。英語や日本語のみの契約書は、万が一の紛争時に法的な効力が認められない可能性があります。
二言語併記:多くの場合、日本人が賃貸契約を結ぶ際は、インドネシア語と英語(または日本語)の二言語で契約書が作成されます。この場合、契約書内に「インドネシア語版が正文であり、解釈に疑義が生じた場合はインドネシア語版が優先する」という条項が入っているか必ず確認してください。
公証(Notarisation):特に長期の賃貸契約や、金額が大きな契約の場合は、公証人(Notaris)による公証を行うことが強く推奨されます。公証された契約書は、その内容が当事者間で合意された事実を証明する強力な証拠となり、万が一の法廷闘争になった際に有利となります。

落とし穴と対策
落とし穴:英語や日本語の契約書だけで安心してしまうことです。不動産業者が「問題ない」と言ったとしても、法的な根拠は薄いことを理解しておく必要があります。
対策:必ずインドネシア語版の契約書を準備してもらい、必要に応じて公証の手続きも視野に入れましょう。専門の弁護士や信頼できる不動産業者に、契約書の確認を依頼することが最も安全な方法です。

「敷金」と「家賃」の支払いに関する慣習と法律
インドネシアの賃貸契約において、支払いに関する慣習は日本と大きく異なります。

法律的な重要性
年払い(一括払い)が一般的:インドネシアの賃貸市場では、家賃を1年分または2年分まとめて前払いするのが一般的です。これは、法律で定められているわけではありませんが、多くの貸主がこの支払い方法を要求します。
敷金(Deposit)の取り扱い:敷金は、家賃の未払いや物件の損害に対する担保として預けられるお金です。日本の「原状回復」の概念とは異なり、インドネシアでは貸主が一方的に敷金から修繕費を差し引くケースが少なくありません。敷金の返還に関するトラブルが非常に多いため、契約書に明確な条項を設けることが不可欠です。
法律的な保護:インドネシアの賃貸借に関する特別な法律は存在しませんが、民法典(KUH Perdata)の賃貸借に関する条項が適用されます。これにより、賃借人には物件を善管注意義務をもって使用する義務が、賃貸人には賃借人に物件を平和かつ快適に使用させる義務が課せられます。

落とし穴と対策
落とし穴:敷金が返ってこないトラブルです。退去時に貸主が「壁にキズがある」「家具が壊れている」などの理由で、不当に多額の修繕費を請求するケースがあります。
対策:
契約書の明文化:敷金の返還条件、返還までの期間、差し引かれる可能性のある費用(修繕費など)について、契約書に詳細に記載してもらいましょう。
入居時の写真撮影:入居する前に、物件内の状態を隅々まで写真や動画で記録しておきましょう。これにより、退去時に貸主から不当な請求を受けた際の有効な証拠となります。
支払い記録の保管:家賃や敷金を支払った際は、必ず領収書(kuitansi)をもらい、大切に保管しておきましょう。

賃貸物件の「使用目的」と「地域指定」の確認
賃貸物件を借りる際、その物件がどのような目的で使用できるかを確認することは、後々のトラブルを防ぐ上で非常に重要です。

法律的な重要性
ゾーニング規制(Zoning):インドネシアの都市計画法に基づき、各地域は「居住地域」「商業地域」「工業地域」などに分けられています。居住地域に指定されている一戸建てやアパートを、オフィスとして利用することは原則としてできません。
賃貸借契約書への記載:賃貸借契約書には、物件の「使用目的(tujuan penggunaan)」が明記されているはずです。これが「居住用(untuk tempat tinggal)」となっていれば、オフィスとして利用することは法律違反となります。
転貸(Sublet)の禁止:賃貸借契約書には、第三者への転貸を禁止する条項がほぼ間違いなく含まれています。これは、貸主が賃借人を特定し、責任の所在を明確にするためです。無断で他人に物件を又貸しすることは、契約違反となり、強制退去の理由となります。

落とし穴と対策
落とし穴:会社設立の準備段階で、自宅兼オフィスとして利用しようと考えていた物件が、実は居住用としてしか認められていなかったというケースです。
対策:
使用目的の明確化:契約締結前に、物件をどのような目的で使用したいのかを貸主や不動産業者に明確に伝え、それが可能であるかを確認しましょう。
契約書の確認:契約書の「使用目的」に関する条項を注意深く読み、ご自身の使用目的に合致しているか確認してください。もし不一致があれば、契約を再交渉するか、別の物件を探すことを検討しましょう。

最後に
インドネシアで「家を借りる」ことは、新しい生活を始める上での大きな喜びです。しかし、その裏には、法律や慣習の違いによる落とし穴が潜んでいることも事実です。
これらの法律知識を事前に知っておくことで、予期せぬトラブルを回避し、安心してインドネシアでの生活をスタートさせることができます。賃貸借契約は複雑であり、法律の専門家ではない方が全てを理解するのは容易ではありません。インドネシアの生活のさらなる情報には在インドネシア大使館のウェブサイトを参照ください
私たち法律事務所は、賃貸借契約書のレビューや、貸主との交渉サポートを通じて、皆様のインドネシアでの住まい探しを安心かつスムーズに進めるお手伝いをしています。住居に関するご相談がありましたら、いつでもお気軽にお声がけください。皆様のインドネシアでの新生活が素晴らしいものとなることを心から願っています。